2016年11月24日木曜日

ベトナムの実質為替相場(覚え書き)

 最近は物忘れが激しく、その時々で考えたことをメモしておかないと直ぐに忘れます。ということで今回は小さなメモです。

1)実質為替相場とは?
 実質為替相場とは英語で、Real Exchange Rateという。ある時点での通貨の実質購買力がどのように変化するかを示している。まずドルと円を例にとって説明する。ここではドルの実質為替相場を考える。現在の日本と米国でそれぞれの国における生活に必要な商品のバスケットを想定する。ある時点tで日本で生活に必要な商品バスケットの値段を2000円とし、同じように米国での生活に必要な商品バスケットの値段が20ドルとして、そのときの為替市場のドル円レートが1ドル=110円であればt時点の実質為替レートは1.1ということになる。
ドルの実質為替レート=名目為替レート×米国バスケット価格÷
日本バスケット価格=110x20/2000=1.1
 
 さて1年後に米国のみでインフレが進み、バスケットの値段が22ドルとなったのに対し、日本では2000円のままとしよう。また為替レートが110円で変わらないとする。すると実質為替レートは以下の式で算出する。
ドルの実質為替レート(Q)110x22/20001.21
 
 ドルの実質為替レートQは上がっている。これは海外におけるドルの購買力が相対的に上がったことを意味する。日本では20ドルを出せば米国の22ドルに相当するものが買える。米国の消費者にはよいことだが、米国の輸出業者には厳しい。逆に日本の輸出業者は米国企業に比して有利になる。
 ドルの実質為替レートの上昇は円の実質為替レートの低下を意味する。円の実質為替レートの低下は日本の輸出企業にとって有利な条件となる。

2)実質為替レート変動の要因
 日本と米国の実質為替レートに影響を与えるのは3つの経済指標である。①名目為替レート、②米国のインフレ率、③日本のインフレ率である。前節1)の最初の条件に戻って、名目為替レートが110円から5%上がって1ドルが115.5円になれば、他の条件が変わらなければ、ドルの実質為替レートは1.10から1.1155に上昇する。以下の計算である。
Q115.5*20/2000=1.155
ドルの実質為替レートが上昇すれば、米国の輸出業者には厳しい事態となる。これは上に述べたとおりだ。

3)日本の実質実効為替相場変化
 2通貨間の関係である実質為替レートを他の通貨にも広げて、たとえば日本の円の対外的な購買力を計ろうとするものが実質実効為替相場である。
 日本円の実質実効為替相場は1980年代のバブル時代に最高レベルに達しているが、その後は下落しており、アベノミクスでの円安進行で実質為替相場の低下が進んだ。しかし今年は円高になって実質為替相場の上昇を見ている。
 このような変化のなかで、日本の輸出企業の業績も円高の時は悪化し逆に円安時には改善するという動きを見ている。

4)ベトナムの実質為替相場
 それではベトナムの実質為替相場はどうなっているだろうか。ベトナムの実質実効為替相場についてはいくつかの論文がある。
 とりあえず簡略した形でドルとドンのインフレ率格差と為替相場から2通貨間の実質為替相場の動きを考えて見よう。その上でベトナムの経常収支を観察してみよう。図1の米国とベトナムの消費者物価上昇率格差(青線)を見ると2008年から2011年にベトナムのインフレ率が極端に上昇している。
米国とベトナムのCPI上昇率格差と米ドル・ベトナムドン為替レート
(世界銀行データベースから作成)
 
 ダナン経済大学のキエン博士はこの時期を分析している。同氏によればFDIの急激な流入により国内のインフレ率が急騰し、一方でドンの名目為替相場(赤線)はそれほど下落せず、したがってドンの実質為替相場の急激な上昇が起こった。ようやく2010年にはドンの名目為替相場は急激に下落して調整が進んだが、本来であれば急激に名目為替相場を下落させることで実質為替相場の上昇を緩和すべきだった。
 ドンの実質為替相場の上昇の結果、2010年までは貿易収支が悪化し、経常収支も悪化している。国際収支そのものは急激な直接投資の流入により黒字を保つことが出来たが、ベトナムの輸出産業の競争力を失わせた。キエン氏はこれを「オランダ病」に例えている。
 ちなみに2012年以降はベトナムのインフレ率の大幅な低下とドンの段階的な切り下げにより、実質為替相場の増価は抑えられて経常収支の改善につながったのだろう。
 キエン氏の論文はなかなか面白い以下のアドレスからとれる。


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