2017年1月24日火曜日

「人間の安全保障」シンポジウムに出席



ダナン経済大学での経験を話す
  先週は19日(木)と20日(金)に京都大学で開催された「人間の安全保障」シンポジウムに出席をした。このプログラムの正式の名前は「『人間の安全保障』開発を目指した日アセアン双方向人材育成プログラムの構築」であり、文部科学省「大学の世界展開力強化事業」の支援事業として2012年度に開始された教育プロジェクトである。このプロジェクトは、日本とASEANの大学間で修士課程の双方向ダブル・ディグリーのプロジェクトを構築することを目的としており、京都大学からは農学研究科、エネルギー科学研究科、医学研究科が中心となり、東南アジア研究所など関係する部局の協力を得て進めてきたものである。5年間を経て、この3月で文部科学省補助金の期限を迎える。今回のシンポジウムはその総括としてのシンポジウムだった。
参加者で記念撮影
 このプロジェクトにはASEANを代表する30大学のコンソーシアムであるAUN、そしてAUN参加大学のチュラロンコン大学、マラヤ大学、ガジャマダ大学、バンドン工科大学、シンガポール国立大学、そしてAUN準参加大学としてカセサート大学が参加して、修士課程学生の教育を行う。また参加大学の学生のために京都やそれぞれの国でサマースクールやウィンタースクールも開催し、参加の公募をAUNが取りまとめている。
 プログラムの中核は、3年間で京都大学と提携大学の修士資格が取得できるダブルディグリープログラムと、提携大学の修士課程にいる学生が1年間京都大学に留学できるシングルディグリープログラム、そして短期の交流プログラムの3本からなる。ダブルディグリープログラムはASEANの学生が京都に来るだけではなく、日本人学生がASEANの大学に留学して二つの大学の修士資格を取得できる完全な双方向プログラムである。
 先週のシンポジウムでは、Plenary SpeechとしてAUNのチョルティス氏(Dr. Choltis Dhirathiti)が「International Student Mobility and Migration, Based on the AUN Experience, As an Introduction on How AUN works its Ways towards Regional Student Mobility in ASEAN and East Asia in the past 20 years.”という題名で、AUNの学生交流プログラムとAUNの将来方針について話をされた。AUNは、ASEANの30大学が広範な協力を行うプラットホームとしてバンコックに本部がある。チョルティス氏はAUNが行っている広範な学生交流プロジェクトを紹介した後、しかし大学間交流は大学間のバイラテラルな協力が基本であり、AUNの基本方針はメンバー大学の自主性を重んじ、その補完的な役割を重視していること。また教育の質の保証の分野ではASEANで主導的な役割を果たしていることも話された。日本の大学には、ASEANの大学との提携に当たって、AUNASEAN大学への広範な呼びかけができる特色を活かし、AUN事務局を使ってほしいと呼びかけた。
そのあと私は、Key Note Speechとして「Universities under Performance Pressure – Necessity of International Collaboration」という表題で講演を行った。小生のダナン経済大学での経験、そしてその経験に基づいて今後の大学間の協力のあり方について話をした。ベトナムの大学で経験する日越の相違、学生との交流の楽しさ、長期に滞在することによる新たな研究領域の着想などを述べた。結論としては、海外大学で1セメスターでもよいので滞在し教育をすることが研究者を育てること、外国人研究者の存在が学生や教員に与えるよい影響、そして教育や研究の国際交流の支援の重要性を政治や社会に訴えていく大学関係者の責任を述べた。
午後は、ASEAN参加各大学の国際部門の戦略の紹介があり、そして最も興味があったのは、日本人学生2名、ASEANの学生2名によるダブルディグリープログラムの経験についての講演だった。日本人学生は熱帯農業の勉強をしているX君、そして健康医学を勉強しているYさんであった。Yさんは海外滞在中と言うことでビデオでの講演だった。X君は農村における貯蓄と貧困の研究をしており、Yさんは健康医学の研究である。二人の講演の内容は大変に興味深いもので一人はガジャマダ大学での1年間、そしてYさんはマラヤ大学での1年間である。X君は卒業後に民間企業での就職を決めており、Yさんは国際機関等での仕事を希望している。二人はこのような海外で学ぶ機会がどれほど貴重であり、自分の将来に役立つと思うかを話してくれた。二人の話をこれから京都大学の大学院で学ぶ若い人々にぜひ聞いてもらいたい話である。
 またASEANの学生二人はインドネシアの学生の発表であったが、それぞれに明確な研究テーマを持っており日本の研究室における貴重な経験を重ねていることが感じられた。特に印象に残ったのは二人目で発表をしたZ君で京都大学にやってきてわずか2ヶ月後には海外の学会に先生と出張し、学会発表を行っている。そして「外国人学生を日本人学生と同様に扱ってくれ非常にうれしい。」と述べてもいた。将来は大学での研究者を目指しているという。
 翌日の昼からは、エネルギー科学研究科が開催しているウィンタースクールの成果発表会であった。このウィンタースクールも「人間の安全保障」プロジェクトの一環であり、すでに複数年にわたって開催している。エネルギー科学研究科での研修をもとに仮想の国をテーマにエネルギー政策を議論する。それぞれのグループの個性が出る。会場は終始、笑いがあふれ、楽しい研究発表であった。
大学の世界展開力強化事業は私が京都大学にいる12年間に前半のグローバル30と並んでもっとも力を注いだ事業の一つである。その成果とも言うべき学生諸君のきわめて前向きの報告を聴いて本当にうれしかった。「いいことをできた」というのが偽らざる気持ちである。
このプロジェクトに対する文部科学省支援は5年間の年限が切れて本年3月に終了するが、ダブルディグリープログラムは継続するということである。財政的な難しさはあるものの関係する先生方や海外提携大学との協力で乗り越えていただき是非とも日本とASEANの研究や教育、そしてもっと広範な協力の礎に育ってもらいたいと心から願っている。
                                                   


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