2017年2月22日水曜日

機能しないベトナムの郵便制度

 ベトナムに住み始めて半年が経った。いまでも毎日が驚きの連続と言って良い。そのなかでも驚いたことの一つを書こう。それはベトナムの郵便のことだ。
 ベトナムには郵便制度はあるが、とても機能しているようには見えない。これは本当にショックである。日本では郵便が着かないことは考えられなかった。アメリカでは郵便で小切手を送っていた。ドイツでは1970年代に全国どこでも1日で着くと言われて驚いた。そんな先進国の郵便になれた人間にはベトナムでの生活での驚きは郵便物をほとんど見ない、あるいは郵便物が届かないことだ。半年間で受け取った郵便物は大学に来た一通の年賀状のみと言って良い。日本の友達がわざわざ送ってくれたのだが、それ以外は大学でも我が家でも一通も受け取らなかった。日本であれば自分で支払うようなインターネットや電気代の請求書や通知はかならず郵便でくるだろう。ところがここでは一切そういうものが郵便では来ないのだ。
 ちょっとした書類を送るのも大変である。私の住んでいる一軒家は安全管理の行き届いた通用門が一つしかない団地にある。この団地はダナンの喧噪とは隔離された世界だ。美しい公園が団地の真ん中にあり、街路樹や芝生の手入れも行き届いている。そのために半年ごとに管理費を払うことになっている。ただし契約で管理費は家主が払うことになっている。この管理費の請求書がある日、我が家の門の間に挟んであった。そこでこの請求書を家主に渡さねばならない。日本であれば封書に入れてポストに入れれば終わりである。
 ところがダナンではそうはいかない。郵便を出そうにも郵便局までは1キロある。郵便ポストも郵便局以外にはどこにもない。また仮に出せたとして郵便が届く自信がない。もしこの書類がなくなると面倒である。そこで大学の国際部のランさんに相談をすると、「郵便はだめです、団地の管理事務所に預けなさい、その上で家主に連絡をすれば、家主が取りに来てくれる。」という。そこで早速事務所に預けに行った。趣旨が分からないと困るので、Google翻訳でベトナム語で「家主さんが後で取りに来るので預かってください」と書いて持って行き、預かってもらった。
 この例でも分かるように郵便が信用できず、利用できない。書類は自分で届けるしかない。あるいはそれなりの金額を支払って宅配便を使うしかない。
 これは本当に悲しいことである。
 こちらの街角には時々郵便局がある。また空港へ行く道には立派な郵便局の本局のような建物も建っている。であるが、人々は郵便を信頼していない。もう一つ奇異に感じるのは、郵便ポストがないのである。日本であれば街のところどころに郵便ポストがあり、一日に何回か回収してくれている。ところがダナンには郵便ポストがほとんどないのだ。あっても郵便局の前にポツッと立っているのみで、人々の利用もほとんどない。
 だれも利用しないのは信頼がないからだろう。だからこちらでは銀行などに住所登録をしてもほとんど意味がない。なにも送ってこないのだから当然かもしれない。私も一度引っ越したので、ヴィエトコム銀行に住所変更の手続きに行ったのだが、窓口の責任者が「本当に変えるのですか?」と念を押す。あまりやりたくないようだったが、私はお願いしますと強く言って頼んだ。
 郵便が信頼できないとすれば連絡はどうするのだろう。これはスマホとE-mailということになる。たとえばヴィエトコン銀行のATMでお金を下ろすと、早速お金を下ろしたという通知がスマホにメッセージで入る。SNSはよく使われている。
 また書類の送付は書類をスマホの写真で撮ってメールに添付したりする。人々は郵便の信頼できない世界での生き方を学んでいる。
 日本では明治時代に前島密が郵便制度を確立した。ベトナムでは郵便制度の確立の前に、インターネットなど他のコミュニケーション手段が導入され幅広く利用されるようになった。このため逆に郵便制度がますます利用されなくなった。一種の経路依存性がここでは働いているように考えられる。
 しかしどう考えても非合理である。郵便はやはり社会の絶対的に必要なインフラだと思うのだが、ベトナムでは異なるようだ。一般論として、郵便による現物の書類の送付は必要だろう。心のこもったメッセージカードも郵便が前提で送れるように思う。日本の郵便の一通の値段はしかも安い。これを全部宅配でやっていたらそのコストは大変である。
 郵便は経済発展のための前提条件と思っていた。今は何とかなっているが、本当にデジタルだけでやっていけるのだろうかと首を傾げる毎日である。

4 件のコメント:

  1. はじめまして。
    ハイフォンに駐在しているttkzと申します。
    いつも興味深く読ませていただいています。

    社員の結婚式に行くときに感じるのですが、農村部では番地というのがどうも機能していないようです。招待状にも書いてありませんし、運転手も大体の地区名まで把握して、あとは「このあたりで結婚式している○○っていう家は~?」と道行く人に訪ねながら言っているようです。
    もしかしたらそういうのも郵便の普及を阻むものなのかもしれません。

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    1. どうもありがとうございます。貴重な情報でとても参考になります。日本では明治の地租改正に伴い土地台帳を整理し、早い段階で登記制度を整え、それに伴って番地も振られたのではないかと推測しますが、もう少し調べてみます。

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    2. 上記を書いたあとに思い出したのですが、ベトナムでは郵便番号も機能していないようです。
      他国の郵便番号やZIP CODE制度の存在は理解しているうちの妻(ベトナム人)に聞いてもベトナムにはない、とのことでした。
      それで私もずっと無いと思っていたのですが、これを書く前にちょっと調べてみるとどうも「あるけど誰も知らない使ってない」というのが本当のところのようです。
      あるとはいえ、日本大使館に出す書類でさえ郵便番号を求められたことはないので、本当に機能していないのだと思います。

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    3. 郵便番号がないのは不思議だと思っていたのですが、それで分かりました。やっぱりこれは改革が必要ですが、どうも出来るようには思えません。

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