2017年10月15日日曜日

ベトナムの教育システム PISAテストの高さ

 ベトナムの教育システムは優れていると言われる。特に2012年からはOECDが国際的に実施するPISAテストに参加しており、その結果はこの国の一人当たり国民所得などに比してとても高い水準にある。
 PISAテストは、科学リタラシー、数学リタラシー、そして読書リタラシーの3分野が主たる比較の対象となっている。ベトナムは2015年のPISAテストで、科学リタラシーで世界8位、数学リタラシーで世界21位、読書リタラシーで30位と高い順位を得ている。
 2015年6月のBBCの記事に「ベトナムの教育水準の驚くべき上昇(Vietnam's 'stunning' rise in school standards)」という実施の当事者である、OECDのアンドレアス・シュライヤー教育・スキル局長の寄稿が掲載されている。同氏はこのなかでベトナムが驚異的なパフォーマンスを上げていること、その要因として、科学や数学での教員の質の高さは素晴らしく、またベトナムは国家予算の20%は教育投資に当てられていることを上げている。私もOECDのウェブサイトで見てみたが、特に印象的なのは、成績レベルの低い子供の割合が低いことである。これは教室での指導がよく行き届いていると見るべきであろう。
http://www.bbc.com/news/business-33047924
 ただシュライヤー氏は、この成果には留意すべき点もあるとする。それはこの統計に含まれていない子供がいることで、15歳の子供たちの37%がまだ学校に通っていない。これらの子供たちはこのテスト結果には含まれていない。この学校に通えない子供たちの数を減らすことが大きな課題と述べている。
 確かに、ベトナム教育訓練省が2014年にまとめた「Education for All 2015 National Review」を見るとこの辺りについての細かなデータが参照できる。このレポートは就学前教育から中学校までの義務教育についての現状をまとめたものである。これによれば2013年の中学生(正確には11歳から15歳までの4年)のグロス就学率は92.51%(2000年80.35%)、またネット就学率は88.04%(2000年70%)だった。(同レポート57ページ)これはシュライヤー氏の挙げた数字よりもかなり改善したことになるが、この数値を引き続き上げる必要がある。(右の図は同レポート26ページのFig 15: Net intake in lower secondary education, bu region 2005-2013である。)
http://unesdoc.unesco.org/images/0023/002327/232770e.pdf
このような未就学の児童は高地などに住む少数民族に多い。2005年頃に京都大学の地球環境学堂がフエで実施しているプロジェクトに連れて行ってもらい、電気の通っていない山奥にある少数民族の村に出かけたが、そこにも新しい学校が建っており、驚いたことがある。この国の教育にかける情熱は本当のものに見える。
 ASEAN各国のPISAテストの高さと経済成長についての分析もある。大和総研の井出和貴子は「ASEANにおける教育の充実と経済成長」(大和総研、2014年6月11日)でASEAN各国のPISAテストと経済成長の可能性について分析し、ASEANの国の中でも教育インフラの不足や貧困にからドロップアウトする児童の問題があり、十分な質の教育が実施されていないと指摘している。井出はGDPに比してPISAテストの結果高いことから労働力の高度化を通じて今後の成長が高いだろうと結論づけている。
http://www.dir.co.jp/research/report/overseas/emg/20140611_008636.pdf
 この国は不思議である。ただ前向きの大きな波のなかにあることは確かだ。 

(参考1)
http://gpseducation.oecd.org/CountryProfile?primaryCountry=VNM&treshold=10&topic=PI
1)科学リテラシーでは、OECD諸国の平均493点と比較して525点となっている。女子は男子よりもパフォーマンスが良く、3点だけ男子を上回っているが、これは統計的には有意でない。(OECD平均は男子で3.5ポイント高い)
2)数学リテラシーでは、ベトナムの平均点は495点であり、OECD諸国の平均は490点である。 女子は男子よりも3点高いが、これは統計的に有意でない(OECDの平均は男子で8点高い)。
3)読書リタラシーの平均パフォーマンスは487点であり、であり、これはOECD諸国の平均493ポイントと比較します。 女子は男子よりも高く、その差は統計的に有意な25点となっている。(OECD平均:女子では27点高い。)

(参考2)
 我が国でPISAテストを担当している国立教育政策研究所のホームページによると、PISAテストとは以下のようなものである。
1)PISAテストは、義務教育修了段階の15歳児の生徒が持っている知識や技能を、実生活の様々な場面で直面する課題にどの程度活用できるかを評価。
2)読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3分野について、2000年以降、3年ごとに調査を実施し、2015年調査では科学的リテラシーを中心分野として重点的に調査
3)72か国・地域から約54万人が参加。我が国では、全国の高等学校、中等教育学校後期課程、高等専門学校の1年生のうち、198校、約6600人が調査に参加(2015年6月から7月に実施)
4)2015年調査において、筆記型調査からコンピュータ使用型調査に移行
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2015/01_point.pdf

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